審美歯科

診療案内

診療科目:
歯科・小児歯科
診療時間:
月・火・木・金
9:30〜19:30
土・日
9:30〜18:00
休診日:
水曜・祝日
お電話:
011-669-8211
所在地:
札幌市西区西野5条3丁目7-1
[map]

細胞乗っ取り作戦 チフス菌

続いてお話しするのは「チフス菌」です。

「チフス」という名前も、結構、有名ですね。

このチフス菌の正式名称は「Salmonella Typhi」。冒頭に「サルモネラ」とあるように、「チフス菌」は、サルモネラ「属」の仲間です。

この細菌の名称のつけ方について説明すると長くなってしまうので、ご興味がありましたら調べてみてください。

なお、今後、「チフス菌」とする場合は「Salmonella enterica serovar Typhi」を指すこととします。

 

この「チフス」ですが、従来は「腸チフス」「パラチフス」「発疹チフス」の3つの総称として使用されてきましたが、厳密に分けると「腸チフス」「パラチフス」は、「チフス菌」が原因菌ですが、「発疹チフス」は「Rickettsia prowazekii」を原因菌としており、原因菌が異なります。

*正確には、パラチフスの原因菌は「Salmonella Paratyphi A」です。

 

「チフス」は恐ろしい病気とされ、現在でも(日本を除く)東アジア、東南アジア、インド、中東、東欧、中南米、アフリカなど広い地域において蔓延し、流行を繰り返しています。

日本でも昭和初期から終戦直後までは、腸チフスの感染者が年間4万人、パラチフスの感染者が年間5000人、発生していました。

日本では1897年(明治30年)にわが国で初めて感染症予防のために制定された法律である「伝染病予防法」において、腸チフス、パラチフス、発疹チフスの三種が法定伝染病に指定されました。(当時は3種類の症状が似ていたため、同じ分類とされていた)

チフスの法律による指定は戦後も続き、伝染病予防法の後継法である「感染症法」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)において、腸チフス、パラチフスは2類感染症に、発疹チフスは4類感染症に分類されました。

この法律により、腸チフス、パラチフスの患者、疑わしい患者を診断した医師はただちに保健所を通じて都道府県知事に届け出ることが決められていました。また、場合によっては指定の病院にて強制的な入院措置が取られることがありました。

しかしその後、日本では上下水道の整備による環境改善が行われた結果、感染者数が減少していき、また、治療法が確立されたことなどを踏まえ、2007年4月の法改正により、2類感染症から、特定職種に対する仕事制限に留める3類感染症へと変更されました。

 

このように、かつては日本でも、法律にて指定されるほど厳しく管理されていた「チフス」。

 

それもこれもこのチフスが非常にやっかいな細菌であるからです。

 

チフス菌の感染方法は、前回までにお話ししたサルモネラ菌に類似します。サルモネラ菌は白血球を「乗っ取って」、生き続けることができるとお話ししましたが、チフス菌は、この白血球を乗っ取る方法を積極的に利用します。

腸管の最も外側(腸の袋の内側。消化液と接している側)には微絨毛と呼ばれる構造があり、微絨毛の上には糖衣と呼ばれるバリアがあることをお話ししましたが、その微絨毛のところどころには微絨毛があまり発達していない、周囲の粘膜上皮と異なる「M細胞」と呼ばれる細胞が点在しています。

この「M細胞」は異物をエンドサイトーシスによって取り込み、反対側で待ち受けるマクロファージなどの免疫細胞軍団に提示します。ここで判明した異物の情報に対し、腸管の免疫細胞は直ちに反応し、リンパ球やリンパ組織の間で複雑な情報交換が行われて侵入者に対する情報が分析され、侵入者が細菌などであった場合は、その細菌を攻撃するための特別な兵器を作成して攻撃し(免疫応答)、侵入者が人体に利益をもたらす栄養物であったり、腸内に在住して人体に良い影響をもたらす「善玉菌」であったりした場合は、免疫反応を起こさないように働く、などの決定が行われています。

侵入者に関する第一の「尋問」が行われる場所ともいえます。

 

M細胞に取り込まれたチフス菌は、前回、サルモネラ菌のところでお話しした方法で白血球を乗っ取ってしまうため、腸管のリンパ組織から「侵入者だ!」とは判断されず、殺菌を免れます。

その後、白血球内部で増殖し、さらには乗っ取った白血球を操って腸間膜リンパ節に移動、そこでも「乗っ取り」と「増殖」を繰り返します。事実上、腸の免疫機能で重要な働きをするリンパ組織自体を乗っ取ってしまいます。そしてリンパ球などのリンパ組織には「リンパ管」という、専用(完全に専用、というわけではないけども)の道路があります。このリンパ管のフリーウェイを、白血球を自家用車として移動するのです。そして胸管(上半身と下半身のリンパを集める、太いリンパ管)を上向して静脈に侵入。(胸管は内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流点付近で静脈に合流する)
ついには全身の血管網に移動範囲を広げてしまいます。

血液内の移動をすることで全身の臓器にも感染を広げていき、中でも「網内系」と呼ばれる臓器群集積します。網内系の臓器とは脾臓、骨髄、肝臓などの人体にとって重要な器官です。

しかしチフス菌は網内系にとどまっていません。網内系からさらに移動を開始し、ついには腎臓などにも達します。

またチフス菌は胆嚢にも感染を広げます。

そして「網内系」の一部であるパイエル板、つまり最初の感染場所であった腸管のリンパ組織に、再度、やってくるのです。

最初、M細胞に取り込まれた時はごく少数だったチフス菌が再度、腸に襲来した時は、増殖して大量となった仲間とともにやってきます。

そして仲間たちに攻撃により腸に穴があけられて腸管孔が形成されてしまいます。

 

こうして免疫系を乗っ取られた人体は、40度にも達する発熱、腹痛、関節痛、頭痛、下痢、血便、などの重篤な症状を呈します。

 

 

これがチフスの「乗っ取り作戦」。

 

細菌たちは、あらゆる手段を用いて人体への侵入と「乗っ取り」を画策しています。