審美歯科

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細胞乗っ取り作戦(最終回) 戦いは続く

長くなってしまった今回の特集。内容が内容だけに、細菌に対して「恐ろしい」というイメージを過剰にお持ちになってしまった方もおられるかもしれない。

実際、細菌の攻撃は、過小評価することはできません。そして細菌たちは日々、進化し続けています。

 

しかし人類も、細菌の侵略に対し、怯えているだけではありません。

侵入者や人類の敵に対する研究が日々、行われており、進化し続ける細菌に立ち向かうべく、「次なる攻撃方法」を模索し、編み出しています。

今回は、細菌への攻撃に関する最新の研究成果についてお話しします。ただ、参考にしている文献が数年前のため、「最先端」とは少し違うかもしれません。あしからず。

 

 

まず取り上げるのは、病原菌の遺伝子を操作してしまおう、という方法。

細菌は、全ての微生物と同じく、DNAを持っています。病原菌のDNAの中の、病原因子(細胞に悪さをする成分)が記録されている部分から情報を読み取れないようにして、病原因子が作られるのを防ごう、というもの。
侵入者である細菌自体を殺すのではなく、細菌の、人類に悪さをする方法を奪う事で、人体に対して無害な菌に変えてしまう、という方法です。
これまでお話ししてきた細菌を例に挙げると、細菌のDNAの中の「3型分泌装置」が作られる部分が読み込まれないようにして、3型分泌装置を作れなくすれば、O-157やサルモネラ菌は「悪い成分を注入する針」あ使えなくなってしまいます。なお、まだ3型分泌装置を作れなくする方法は発見されていません。あくまでもたとえ話なのであしからず。

この発想に類似した方法として、病原菌の付着因子(標的の細胞にくっつくための成分)を作れなくして、細菌が細胞に接着するのを防ぎ、感染の足掛かりを奪う方法が具体化しつつある、とか。確かにどんなに凶暴な細菌でも、細胞にくっつくかなければ感染しようもありません。

すでに病原性大腸菌の付着因子を阻害する薬剤が、ヒトでの臨床試験を終えているそうです。(日本での状況は不明)

 

また、細菌同士は「接合」や情報ホルモンの交換によって、情報や遺伝子のやり取りをしている、とお話ししましたが、この細菌同士のコミュニケーションを邪魔する方法が考案されています。

大腸菌などの細菌は、常在菌や宿主の細胞から発信されている「化学シグナル」を聞いて、腸内での自分の位置を判断している、とのこと。病原菌は、この宿主などから発信される「シグナル」を「傍受」し、この盗み聞きして得た情報を分析して攻撃開始の決定を行っている、とのこと。

また、緑膿菌は肺においてバイオフィルムを形成しますが、このバイオフィルムの成分の一つは、免疫細胞が接近して来た際に「警告シグナル」として働き、この「警告シグナル」を受けとった、別の種類の細菌に「免疫細胞を殺す成分」を分泌させることで、免疫細胞を攻撃していることがわかった、とのこと。

つまりコロニー内外で共生している細菌と、情報交換を行ってお互いに身を守っているそうです。

これは口腔内のバイオフィルムにも当てはまります。口腔内のバイオフィルムに同居する細菌たちは、常に情報を交換し合っています。そしてバイオフィルムの住人である細菌同士が助け合って生き延びています。バイオフィルムの中の世界は、まるで細菌たちのマンション、もしくは街のようになっていて、バイオフィルム内の環境がより快適になるように、住民である細菌たちが共同して運営しているのです。

この細菌同士の「会話」を邪魔して連絡を取れなくすることで、細菌同士の連携を破たんさせ、バイオフィルム内のコロニーを弱体化しようという作戦。

この作戦のメリットが説明されているのですが、それによると、これらの細菌の「病原因子」は、あくまでも宿主細胞内に侵入する際や、宿主細胞を攻撃する際に必要となるが、宿主の外にいるとき、つまり宿主細胞の外にあるバイオフィルムで生活している段階では、必要とされません。まあ、宿主細胞の中と違って免疫細胞などと戦う必要もないですので。

で、この状態自体は人体には「無害」なため、病原菌を生かしたまま無害化できる、とのこと。

この点は、歯科医としては「異議あり!」と言いたいところもあるのですけどね。

で、この方法のメリットとしては、抗生物質を使って細菌を徹底的に殺そうとすると、細菌は殺害を免れよう進化して、その薬剤に対する「耐性」を獲得してしまうのだけど、細菌を殺さずに、人体に対し悪さをしない状態のままで生かし続けることで、抗生物質に対する「進化」の意欲を薄めさせる、というもの。

この場合、細菌自身は生きているので、抗生物質に対抗するために行動する必要もなくなります。こうして細菌から「進化のための努力」をする意欲を奪う事で、薬剤に対する進化を停止しよう、というもの。なんと細菌を怠け者にしてしまう作戦!いわば、細菌と奇妙な共存をする作戦、とでも言いましょうか。

こうすることで、細菌が新薬に対する耐性を獲得してしまうのを遅くすることができる、とのこと。

科学者って、すごいこと考えるね!なんか、人間にもそのまま実行できそう!!

でも、この説明からも、歯科医院でのスケーリングによるバイオフィルム破壊が、如何に効果的か、お分かりかと思います。

スケーリングは、超音波や激しい振動をする器具を直接、バイオフィルムに当てることで、物理的にバイオフィルムを破壊してしまおう、という方法です。薬剤も使用しないため、薬剤耐性とも無縁。

バイオフィルムに対する「直接攻撃」ができるのは、口腔だけですので、皆さんぜひ、定期的に歯科で歯の汚れ取りをしましょう!!

 

 

さて、上で紹介した方法は、どちらかというと間接的に細胞を攻撃する方法ですが、これをさらに間接的に行おうというのが「プロバイオティクス」の考えに基づくもの。

これは人体に対して有益な細菌を利用することで、健康を保とう、という方法。ヨーグルトを摂取して、腸内の善玉菌を育成する方法、が代表的ですね。

細菌には細菌で対抗しよう、というアイディアです。まだ、どの細菌が人類に対して有益か、不明の部分も多いとのことですが、今後の研究の進展によっては、抗生物質に頼らない防衛手段が確立されるかもしれません。

 

 

次にご紹介する方法は、細菌に対する攻撃ではなく、人体がもともと持っている免疫機能を増強しよう、という方法です。

そう、細菌感染の際の迎撃の主役は、やっぱり免疫細胞たちです。

この方法はすでに実現しており、免疫刺激剤が入っているワクチンが実用化されているそうです。

現在は、侵入者を最初に迎え撃つ「自然免疫」を増強する新薬が開発され、治験の段階に至っているものもあるそうです。

今回の特集で、簡単に乗っ取られたり、自死させられたり、と散々な目にあっていた自然免疫である白血球、マクロファージたち。実際は非常に強力な番兵です。それをさらに「強化」して、「侵入」の第一段階で感染を食い止めよう、という発想。ここまでお読みいただいた方々なら、とても効果的であることがおわかりいただけるかと思います。

さて、細菌を攻撃するのではないため、一見、「耐性菌」の心配がなくなるように思えるこれらの方法ですが、問題もあります。

これまでお話ししてきたように、「炎症」の原因は、免疫細胞の攻撃も大きな部分を占めています。

免疫細胞が使用する「対細菌兵器」が強力過ぎて、人体を破壊してしまう、というもの。

大昔に上映された「バタリアン」という映画では、ゾンビが溢れる街に対し、アメリカ軍は核兵器を発射して、ゾンビになっていない人も残っている街ごと破壊することで、ゾンビを全滅させる、という結末となりますが(ネタバレすんません)、ある意味、これと同じく、免疫細胞が細菌と細菌に感染した宿主細胞を破壊するべく強力な兵器を発車したら、周囲の健康な細胞も一緒に破壊されてしまう、という事態が発生してしまいます。

「自己免疫疾患」とは、人体の防衛システムが過剰に機能してしまったために、人体を攻撃している疾患のことを言います。(これまたとても「ざっくり」した説明です。詳しくは調べてみて下さい)

免疫機能を増強しすぎると、この自己免疫疾患が発生してしまうかもしれないのです。

しかし最近の研究では、この点もクリアになりつつある、とのこと。

その方法とは、免疫機能が作動した際に発信されるシグナルの内、マクロファージなどの「細胞免疫」を担当する細胞を呼び寄せるシグナルを放出させ、抗体の中でも「対細菌兵器」として人体をも傷つけてしまうほど強力なものを産生させるシグナルを発信させないようにして、自己免疫疾患を起こさずに、より強力で的確に攻撃できる免疫機能を起こさせよう、とするもので、すでにこの方法に基づく薬も開発されつつあるそうです。

 

 

 

さて、ここまででもかなりご紹介してまいりましたが、人類の細菌に対する「攻撃方法」のアイディアは、もっともっとあります。とてもすべては紹介しきれません。

細菌の侵入は、人類にとって大きな脅威ではありますが、人体の免疫機構や科学者たちも手をこまねいて見ているばかりではありません。

 

侵入者に対する防衛方法が日々、研究され、実践されています。

課題となっている「耐性菌」の問題を克服するための努力も行われています。

 

また、手の洗浄や食器の殺菌など、ご家庭で実行できる方法で、感染の多くを予防できます。

 

細菌の侵入に対し、過剰に恐れるのではなく、できることから始めてみましょう!

 

そして若い人が細菌との戦いの最前線に興味を持ったのなら、ぜひ授業の生物学を学びましょう!

 

それが将来、大きな発見につながるスタート地点です。