審美歯科

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「糖」について その7 スクロースと虫歯について ②

前回は、ミュータンス菌をはじめとした細菌が、スクロースを使って歯や他の細菌と接着し、それがコロニーとなってやがてバイオフィルムを作る、ということまでお話ししました。この一連の流れは、糖の「接着力」をもとにできるもの。
次にお話しするのは、細菌の「酸産生能」、つまり細菌がスクロース(砂糖)を使って酸を作り出すまで、についてです。

 

 

前回のお話しで「接着力」の中心になったのは、細菌がGTFを用いて作り出した「非水溶性グルカン」でしたが、細菌がスクロースを利用して作り出すことができるグルカンは「非水溶性」のものだけではありません。水に溶けやすい「水溶性グルカン」も作られます。
この水溶性のグルカンが、細菌の栄養源として利用されるのですが、水溶性グルカンは非常に大きく、また「水に溶けやすい=水になじみやすい」性質のため、そのままでは細菌の体内に取り込むことができません。

細菌に限らず人でも他の動物でも、個々の細胞の周囲には「細胞膜」という膜があって外界と境されているのですが、この細胞膜が脂溶性つまり水となじみにくい性質のため、水溶性のグルカンとは文字通り「水と油」の関係にあります。

細菌は単細胞生物なので、細胞一個で生きていますが、細胞膜が人でいうところの皮膚にあたり、この頑丈な壁によって自分の体を守っています。

少し寄り道してみると、細菌がヒトに感染した!と聞くと、目に見えない得体の知れない生き物が侵入してきた、という感じがして不気味に思えてきますが、ここで細菌の気持ちに寄り添ってみると(苦笑)、細菌にとって、自身よりも大きな細胞に侵入することはとても脅威なことです。なんせ細胞という、様々な物質や液体で満たされた物体の中に入り込んでいくようなもの。様々な物質で満たされているだけに、細胞に入った後、細菌は周囲から過大な圧力を受けることになります。

これは潜水艦で深海にもぐりこんだときと似ていますね。潜水艦は海の中でも人が生存できますが、その人間の活動スペースと外の圧倒的な量の海水を隔てているのは潜水艦の丈夫な「外壁」のみ。その外壁も常に周囲の海水から非常に大きな圧力を受けています。もし、この外壁に穴が開いてしまったら、たちまち海水が流入してきて海に沈んでしまいますし、穴が開いていなくてもさらに深い深度に下がって行けば、水圧でペチャンコにされてしまいます。

細菌にとっても、細胞の中で生きていくということは、自身の生死を賭けた行為でもあるのです。細菌も必死!

ちなみにペニシリンの属する系統の抗生物質は、この細菌の細胞膜に穴をあけてしまいます。するとその穴から細菌の体内に細胞の様々なものが流入してきて、細菌は細胞の中で溶けてしまいます。

ミサイルで潜水艦の外壁に穴をあけて沈没させるような感じです。

 

閑話休題。

 

さて頑丈な細胞膜ですが、それが故に外からの栄養物も通すことができません。人間や動物なら口からムシャムシャと食べることができますが、細菌には「口」はありません。

そのため細菌の細胞膜には外部から栄養を取り込むことができる装置があります。開閉可能のトンネルがある、といいますか。

その装置は少なくとも2種類あり、これらによって大きな糖も体内に取り込むことができます。

こうして取り込まれた糖を用いて、細菌は生物共通のエネルギー源である「ATP」を得ることができます。こうして「ATP」を作った結果、乳酸やギ酸、酢酸、エタノールなどの「酸」が「排泄物」(人でいうところのウ〇チ)として発生します。

またこの「ATP」を作る際、プラーク内の酸素を消費します。そのため周囲と隔絶された空間であるプラーク、またはバイオフィルム内部ではどんどん酸素が減っていき、酸素の無い環境になっていきます。するとプラーク内部での生態系が変わり、じょじょに酸素を嫌う細菌が台頭しはじめ、一層、人体への悪さを強めます。

そう、バイオフィルム内部では細菌同士が共同生活をしているのと同時に、お互いに生存競争もしているのです。

 

で、この一連の流れで発生する乳酸やギ酸などが、歯を溶かしたり、唾液を酸性にしたりするのです。

 

さらに話を進めると、甘いものをたくさん食べて、糖がバンバン供給されてくる状況では細菌も羽振りよく行動して、乳酸をバンバン生産します。それでも糖が入ってきて細菌内部での処理が追いつかなくなると、細菌は余分な糖を自分の体内に貯めておくようになります。これを「菌体内多糖」といいます。人間での「脂肪」というところでしょうか。

一方、今度は糖が入ってこない状況になると、今度は生活態度を変えるため、できてくる酸は「ギ酸」や「酢酸」「エタノール」へと変化していきます。これらの酸は、乳酸よりも強い酸で、歯を溶かす力も強くなります。

で、糖の供給がほぼ絶えてしまうと、今度は自分の体の中に貯めこんだ糖分である「菌体内多糖」を利用して、エネルギーを作り始めます。このあたりも人間と同じですね。人間も細菌も、同じ生物の兄弟だ!!

 

 

で、ですね、ここから細かいことながらも重要な部分になっていくのですが、前回、お話ししたとおり、プラークもしくはバイオフィルムはたくさんの違う種類の細菌同士が集まって生活しているコロニーなのですが、このコロニーは見た目は非常に小さいのですが、細菌から見れば巨大なマンションみたいなもので(田舎者が東京のナントカヒルズを見上げて「大きいなあ」と思うよりももっと巨大)、そのコロニーが歯にくっついている最前線は「最深部」となり、その外側に分厚い細菌の「層」ができている状況。「最外層」と呼ばれる最も外側の、外界と直接触れる場所では糖の供給も十分なのですが、糖はコロニーの内部に至るまでに、その途中で細菌たちにどんどん消費されるたびになくなっていくため、成長したコロニーほど「最深部」には糖が全く届かなくなってしまいます。

そのため上記の「糖が入ってこない状況」となり、より強い酸が作られていくことになります。

また、同じ理由でコロニー内部には酸素が供給されなくなるため、酸素の必要のない細菌が増え始めて、より人体に悪さをするようになっていきます。

 

つまり、プラークやバイオフィルムが成長すればするほど、内部ではより強力な細菌が誕生し、より強力な酸が発生しているのです。

 

 

この理由から近年、「ミュータンス菌が乳酸を出すことで、歯をとかし、むし歯になる」という単純な見方が否定され、バイオフィルムという生態系で見る必要が出てきました。

 

最近、小さいお子さんでも大人と同じような歯の清掃を行うことが増えてきましたが、例え「歯石」という、目に見えてわかる存在ができていなくとも、バイオフィルムの段階でその生態系を破壊して「善玉菌」を付着させることは重要と思われます。

特に多くの乳歯が虫歯になっているお子さんでは、歯磨きや虫歯の治療と同時に歯科医院での歯の清掃によって、上記の細菌のコロニーといえるバイオフィルムの成長を阻止することは、大きな意味を持つと思われます。

 

 

続きます。