審美歯科

診療案内

診療科目:
歯科・小児歯科
診療時間:
月・火・木・金
9:00〜19:00
昼休み/12:30〜14:00
土・日 9:00〜17:00
昼休み/13:00〜14:00
休診日:
水曜・祝日
お電話:
011-669-8211
所在地:
札幌市西区西野5条3丁目7-1
[map]

「口のしまい方」について

今回は、今年の1月20日に受講した「特殊な対応を要する基礎疾患を有する患者に関する歯科保健医療の研修会」について、お話しします。

 

というのも、高齢化社会、人口減少社会においての歯科について、示唆するところが多いように思いまして。

 

この日の講演ですが、講師には日本歯科大学の教授で日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの院長をされている、菊谷武先生が招かれていました。

非常に失礼なことに、自分は後から知ったのですが、菊谷先生は「摂食・嚥下」の分野で有名な先生とのこと。

もともと「業界の有名人」について、あまり詳しくはなく、まして「摂食・嚥下」に関しては今年初めて、足を踏み入れた分野なもので、まだまだ無知なところも多いのが本音です。

なお、自分の時は「摂食・嚥下」は独立した分野としては学んでいなかったのですが、現在の歯学部生、歯科衛生士専門学校生では、「摂食・嚥下」が独立した分野となっていて講義も行われている、とのこと。つまりこれからの世代でも「常識」となっている分野です。

 

どんなお話しを聞けるのだろうか?と思っていたのですが、これが個人的には結構、衝撃的な事ばかりでして。

 

もう、2か月も前に行われた講義なので、一生懸命、思いだそうとはしますが、順番とか、細かい内容とかは異なるかもしれません。あしからず。

 

まず、印象に残っているのが、歯科が原因の「誤嚥性肺炎」が、高齢者の死因の多くを占めている、ということ。

 

世間には「8020運動」という言葉が浸透しています(よね?)

80歳の時に歯が20本あることを目標とする運動です。この言葉を下に、「歯を抜かないこと」が優先課題とされてきました。

歯を抜かない、ということはとても重要な事です。何歳になっても「自分の歯で噛める」ことは、健康を維持するうえで必要なこと。

 

しかし、人が高齢になり、各介護施設に入居するようになり、身の回りのことをヘルパーさんなどに頼むようになると、状況は一変します。

たくさん、残った歯の清掃を自分ではできなくなるからです。

各施設のスタッフ、担当の方も、多くの入居者、入院患者に対応しなければならないため、一人の口腔ケアに割ける時間は限られています。なかなか、口の清掃を徹底するのは難しい。

口の中の清掃状態が悪化し、細菌が増え、それを飲みこむことで口腔内の「悪さをする菌」が喉奥に侵入し、気管に入り込み、肺炎を起こす。

これが誤嚥性肺炎の原因の一つです。(この1年間、勉強したけど原因はいろいろある)

口腔内の細菌は歯にくっついています。ということは、残っている歯の本数が多いほど、細菌の数も多くなり、誤嚥性肺炎の可能性も高まってしまう。

 

まさに「8020運動」で歯を残せば健康でいられる、という「常識」に、アンチテーゼを突き付けられたようなもの。

 

講演では、高齢になり、自分一人での行動が難しくなっていくにつれ、不必要な歯を無理に残すべきではない、という主旨のことが述べられていました。

長生きするために、「歯を抜く」という選択肢も必要になると思います。また、患者さん本人だけではなく、施設入所後など患者さんを取り巻く環境を考えた上で「歯を抜く」という判断が必要になることもあるかもしれない。

抜歯は、決して安易に行われるべきではありませんが、必要な抜歯、というのもあるのも事実。講演では「歯を抜かない歯医者は、良い歯医者」という世間の見方に疑問が呈されていました。

 

 

 

続いて、義歯についても取り上げられていました。

 

高齢者や寝たきりでは、必ずしも義歯が良い、というわけではない、とのこと。

 

せっかく義歯を作っても、使用しない人が多いのが現実。

実際、昨年6月に栄養士さんを招いての講演会に出席したのですが、その中で栄養士さんは「寝たきりの方や介護度の重い人ほど、義歯を使わない」ので、「食品を軟らかくしている」とのこと。

結局、入れ歯を作ったところで、それを使ってモノを噛むか、というと、ほとんどは噛まない、とのこと。

うーん、入れ歯って「噛んで食事することができるようにすること」が目的だったのに・・・・・・・。

 

講演では、むしろ舌の動きが重要と説明。噛めない理由は舌の動きが弱くなったからだと指摘し、噛むことにこだわらず、年齢とともにやわらかくて栄養が摂れること、を考えるべき、と話していました。

この一年間、「摂食・嚥下」について学んできましたが(どれだけ学べたか、はなんとも言えないけども・・・・)、舌の動きの重要性について、実感させられることばかり。「飲みこむ」という行為も、舌の動きが重要です。

 

講義の中で菊谷先生は、見た目を気にしすぎた揚句、年齢に合わないで噛み合わせの高い入れ歯を作ったせいで、舌が上あごに着くことができずに飲み込むことができなくなった例について、話していました。

 

 

・・・・・これについて、自分も苦い経験があります。

以前、あるアドバイスに従って、入れ歯を作ったときのこと。

女性の患者さんは、噛み合わせが低くなっていたために、口元に皺がありました。この皺を失くして見た目を改善するため、噛み合わせを高くしたうえで前歯に傾斜をつけ、要は唇を引っ張ることで皺を失くすようにする提案を受け、自分も同意。

新義歯の装着の日、女性の患者さんは鏡で皺の無くなった口元を見て感激し、うっすらですが、涙を流していました。その際、「若いころのかみ合わせに戻ったんですよ」という発言もあり、その場は「医療で感動する」という空気になっていました。

 

 

・・・・・これで終われば、まさに医療ドラマのようなハッピーエンド、義歯に関するブラックジャック、とでもなっていたのでしょうが、そうはならず。

装着して数日後、患者さんご本人より、「新しい入れ歯が使いづらい」との訴えがありました。噛みづらいし、飲みこみづらい、とのこと。

噛んでいるときにコツコツと音がするし、噛む感覚が弱い、と。

結局、見た目を重視したことで入れ歯が必要以上に大きくなってしまい、また、「適正な位置で噛み合わせをさせる」ために「教科書通り」に噛み合わせを設定したことで、噛む位置が高くなってしまい、異物感が出てしまったのでした。上げ底のブーツや靴で歩くことを想像していただきたい。背は高くなるけども、足元の地面を踏みしめる感覚は、そこが暑くなってしまった分、弱くなってしまいます。

「上げ底」をしたことで、口の粘膜から伝わる感覚が弱くなってしまい、異物感だけが強くなってしまいました。さらには噛み合わせを不必要に高くしたために飲みこみ時に舌が上あごにつかなくなってしまい、飲みこむ行為も難しくなってしまいました。

皆さんも、モノを飲みこむとき、舌は上あごに密着しています。これができないと、飲みこみ動作は不十分になってしまうのです。

 

口元だけを若返らせても、結局、口の機能は変化してしまっているので、もう過去に戻ることはできません。

その時々の年齢の口に応じた入れ歯を作る必要があります。

 

結局、かのう歯科の責任で再制作となり、旧義歯を補修して現在の口に合わせた形態にして暫間的に使用してもらいながら、抜くべく歯は抜き、やり直しする被せものは適正な形、高さに作り直しました。現在はリハビリを兼ねて旧義歯を使用していますが、以前に頻繁に見られた義歯の破折もなく、左右のかみ合わせも安定してきました。食事も無理なく、疲れることなく採ることができる、とのこと。

 

教科書や職人技というのは必要ですが、最終的には患者さんに使用してもらえないと意味がありません。

教科書の正論を振りかざしても、噛めないんだからしょうがない。

 

その経験以来、患者さんの使用感を意識するようになりました。「自分が正しい」と自分だけの「正義」を振りかざしても、患者さんには個々の口の状況があるわけですし。

 

そんなことを考えるようになっていた時に、この講演を聞いたので、心のなかで大いに合点がいきました。

 

噛み合わせについての学問はとても重要ですが、歯科医の言う「正論」が本当に患者さんにとって正しいのか、否か、は考えないといけない。

 

 

ちょっと、最後は脱線気味になってしまいました。これにて終わりにしておきます。