



審美歯科
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むし歯とPhの関係について その1
- Date / 11月 22nd, 2017
- Category / クリニック情報
さて、講演の内容ですが、わざわざアメリカからやってきた、というだけあって、授業は英語。もちろん翻訳機を使用するのですが、スライドの文章まで英語(苦笑)。会場には凄い人数の人がいたのですが、「もしかして自分以外、みんな英語がわかるのか?」と焦り、自分も「英語が分かっているふり」をするのが大変でした。
実は開業直後の6年前、「自分も国際派になろう!」と、英語のお勉強を「チラッと」やったことがありました。こう書くと「加納は英語ができるアピールをしている」と思われる方もおられるかもしれませんが、本当に「チラッ」とで、しゃべれないし、話せません。文章がようやく読めるくらい。慣れだね、あれ。
それにしても、いきなりスライド一面に英語の文章がびっしり出てきたときの絶望感といったら!あれ、わざわざ北海道から宿をとってまでしてきたから得意の「モッタイナイ」精神を発揮しましたが、東京近郊に住んでいたら「めんどくさそう」と帰っていたかもしれない。
ちなみに出席者名簿を少しだけ見たところ、地方の人も多かったですね。岐阜県や広島県、九州まで、広い地域からわざわざ東京まで集まっている様子。
脱線ばっかりで申し訳ありません。こんな感じで、講演は英語に溢れていたため、ここからお話しする内容も加納の意訳があるかもしれませんのであしからず。
講演ですが、開始早々、スライドには
「ミュータンス菌が多くても虫歯にならない人がいる」
という、業界的に衝撃的な一文が!
今年、当ブログでも「ミュータンス菌は、むし歯菌」と繰り返してきましたが、そのミュータンス菌が多くても、むし歯にならない場合がある、と。
それは一体、どういうこと?
Dr.ヤングは次のスライドにて、解答を提示。
「口腔内のPh(ペーハー)が下がると、病原菌が増加する」と。
これだけでは説明不足ですが、つまり口腔内のPhが下がることで、口腔内のバイオフィルムの恒常性が失われてしまう、と。
唾液のペーハーは「6.8~7.0」の弱酸性もしくは中性が保たれるようになっています。
食事をすると、その直後から口腔内の細菌がそれを「食べて」、酸を輩出する、という作業を行い始めるので、口の中の唾液のペーハーも下がります。でも、唾液の中にはペーハーを中性に戻そうとする成分もあるので、しばらくするとペーハーは中性に戻ります。
なお、数年前に、「食事した後、すぐに歯磨きするのは良くない」というトピックスが世間で話題になりましたが、それはこの食事直後の、どうしても口の中に酸が溢れる時間帯に歯ブラシでゴシゴシしてしまうことで、かえって歯が減ってしまうことになるのでは?というもの。
これ、なかなか説得力があって、歯科の先生にも納得する方も多かったのですが、その後、「それでは歯には問題は無い」とする見解も出ているので、現段階ではあまり気にし過ぎなくていいと思います。これについては何か進展がありましたら必ずご説明いたします。
ちなみに、歯の表面にあるエナメル質は、Ph5.5以下に下がると溶け始めますが、食後はこの数字以下までペーハーが下がることが多いです。
この時の下げ幅は、食べ物自体のPh(レモンなどは強い酸を持っている)などで変わるのですが、個人の体質などにも左右されるため、状況によって変化します。
ちょっと脱線しましたが、ヤング博士のいうところの「口腔内のペーハーが下がること(酸性になること)で、バイオフィルムの恒常性が失われてしまう」とは、ペーハーは下がると、口の中のバイオフィルムの性質が変化してしまう、ということ。
「バイオフィルム」という言葉も、今年、当ブログで何度も使用してまいりました。むし歯や歯周病は、「ミュータンス菌」や「ポルフィロモナス・ジンジバリス菌」(歯周病菌)といった細菌が単独で起こすのではなく、これらの菌が主導してはいるものの、病変は、バイオフィルムという細菌の集合体が共同して起こしています。
このバイオフィルムは個人によって全く性質が異なります。
今年の9月に参加した、日本病巣疾患研究会にて大阪大学歯学部の天野教授の講演において、一度形成された口腔内のバイオフィルムの細菌の組成(どの細菌がどのくらいいるか)は、ほとんど変化しない、と説明されていました。歯科医院での汚れ取りなどで細菌の数自体は減らすことはできても、固有のバイオフィルムをリセットすることには至らない、と。
つまり、一度、定着してしまったバイオフィルムは、大きく性質を変えることは困難、と。
ここでこの前までお話ししていた腸内フローラシンポジウムの様子を思い浮かべていただきたい。腸内細菌は母親から受け継がれ、生涯を通じて生息していく、と書きましたが、口腔内でも同じ、と言えるかもしれません。
ただ、口腔内細菌は、外部との直接接触の多い場所でもあるので、腸内細菌と同じ、とは言い切れません。
さて、話を戻しますが、それまで悪さをしていなかったバイオフィルムが、口腔内のペーハーが下がると、なんと酸を産生するようになってしまう、と。
講演では
「Phを下げると普通は良い性格の細菌が、酸性の中では発酵をするようになる。」
さらに
「良い性格のバイオフィルムでも、環境が変わると悪い性格になってしまう」と。
悪い性格になってしまったバイオフィルムは、乳酸、酢酸や酪酸、プロピオン酸といった酸を産生し、歯や歯ぐき、骨を溶かし始め、歯周病や虫歯を起こしていきます。
ここでまた、一か月前の腸内フローラシンポジウムの内容を思い出していただきたいと思います。
腸内細菌は、人が食事で摂取したものを腸で「発酵」して、短鎖脂肪酸を作り出し、人体や他の腸内細菌への「栄養」を作り出します。
この時の短鎖脂肪酸とは、乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸などなど。
これ、全て口腔内では歯や歯ぐき、骨を溶かしてしまう悪い成分になってしまうのです。
で、腸内は胃酸や大腸・小腸などからの酸の分泌により、酸性に保たれています。
酸性に保たれているから、「発酵」を行って、酸を産生し、人体に良い影響を与えている。
でも口腔内で「発酵」してしまうと、同じく酸を産生しても、人体に悪い影響を及ぼす。
つまり口腔内と腸内とでは、真逆になってしまうのです!
でも、「酸性の環境下では、細菌は発酵を始める」という事実は変わらない。人体の場所によって、必要とされる性質が異なるだけなのです。
この真逆な常識のため、歯科医と腸内フローラの研究者では、正反対の視点を持ってしまう。
シンポジウムでは、腸内では「嫌気性菌」が「善玉」とされていましたが、口腔内では「悪玉」です。同じく腸内では「好気性菌」が「悪玉」とされていましたが、口腔内では「善玉」(というか何もしない、というか)。
腸内フローラシンポジウムでは、「腸内細菌は必ずしも人体にとって「善玉」とは言えない」と、発表されていましたが、その通りです。口腔内では悪玉です。
腸内細菌の一つとして有名な「ラクトバシラス菌」は、口腔内ではキリで穴を開けるように、歯に鋭い虫歯を作ってしまいます。
ここはとても大事で、テレビなどでは「腸内細菌に良い」とされること(酢の摂取など)でも、口腔内では悪いこと、になってしまうので要注意です。
なんだか長くなってしまったので、続きます。